戦争と平和 古伊万里再生プロジェクトのめざすこと
2019年 08月 15日平和な日本に生まれ育ち、それを当たり前に享受してきた私たちが次の世代になにを引き継ぐのか。毎年この時期になると思いを馳せずにはいられません。
70年代生まれ、戦争を知らない世代の私たちにとって、ウィーン近郊の古城で目の当たりにしたこの光景は、あまりにも衝撃的でした。
ここに並んでいる陶片はすべて、第二次大戦末期に戦争により破壊されてしまったものです。その数およそ1万点以上。中には日本の重要文化財級の名品も含まれています。
城主との出逢いは都内で催した小さな茶会でした。戦国時代に心の安寧をめざし確立された茶の湯が、このようなご縁を結んでくれたのも不思議なことです。
300年前に日本から西洋へ渡り、お城を美しく飾った古伊万里と呼ばれるこれらのやきものは、先の大戦後74年間、痛ましい姿のまま中欧辺境の小さな古城で城主一家により大切に保管されてきました。負の歴史をこのように扱うことは、とても勇気ある行動だったと思います。
ロースドルフ城の古伊万里陶片という戦争遺産に対して、やきものの故郷である日本から手を差し伸べられないかと考え、私は有志たちとプロジェクトを立ち上げました。www.roip.jp
私はふだん、茶の湯を英語で海外の方にお伝えする活動をしています。人間は自然の中で生かされ、洋の東西を問わず、生活の中に自然を美しく取り込み豊かに味うアートを創造してきました。それは茶の湯であり、西洋の絵画であり、やきものでもありました。器物は平和を愛する人たちにより蒐集され、人々の出逢いやつながりを穏やかに見守ってきました。
しかし、それらは戦争で【憎しみ】の対象にもなったのです。ロースドルフ城を接収した旧ソビエト軍は、撤退時に地下の倉庫に隠されていた美しいやきものを、ピストルの的にして粉々に破壊しました。打ち砕かれた陶片はおよそ1万点以上にのぼります。
ヨーロッパの王侯貴族の邸宅を美しく飾った古伊万里のロマンと悲劇の物語。陶片の海は迫真に訴えるものがあります。戦争はいけない、二度としてはいけないと言葉で唱え、頭で理解するのとはまったく別次元の体験です。
古伊万里再生プロジェクトは、現在、駐日オーストリア大使館、在ウィーン日本大使館の後援を得て、現地にて学術調査を進めています。昨年来プロジェクトはメディアにも取り上げられ、少しずつ賛同下さる個人や団体も増えてきました。私自身は民間のボランティアなので、各方面からのご賛同は本当にとても嬉しくありがたいことです。
2020秋には、国内の多くの方にもご覧いただける機会として、東京・大倉集古館にてロースドルフ城のやきものコレクション展が企画されています。また、全国の複数会場にて巡回展も計画されています。日本を代表する研究者・専門家の方々が、高い志を持って取り組んで下さっていますので、是非ともご期待ください。
ロースドルフ城古伊万里再生プロジェクトでは、日本のやきものが世界に展開した歴史、西洋のデザインやアートにもたらしたジャポニスムというインパクトなど芸術的な側面に加え、世界を巻き込んだ戦争がもたらした哀しい出来事に光を当てることで、平和への願いをつなぐきっかけにしたいと希望しています。
陶片がつなぐ平和への願い。これからもチーム一丸となって意義ある活動を展開してまいりますので、ご支援をどうぞ宜しくお願いいたします。www.roip.jp
令和元年 八月十五日
終戦記念日によせて
古伊万里再生プロジェクト(ROIP)
代表 保科眞智子