茶の湯文化のバイリンガルナビゲーター 保科眞智子の活動ブログ Blog of a Japanese Urasenke tea master, Machiko Soshin Hoshina, based in Tokyo, Japan.

by MACHIKO SOSHIN HOSHINA

ウィーン北部古城に眠る 伊万里コレクションを訪ねて

陶片コレクションとの出逢い

粉々に砕かれた伊万里焼の陶片たち。このショッキングな写真は、ハプスブルク家の血族、ウィーン北部ロースドルフ城主である旧侯爵家に伝わる古陶磁コレクションの一部です。お城は第二次大戦時の侵攻により大きなダメージを受け、日本から輸出された古伊万里焼をはじめとする陶磁器コレクションはこのような無残な姿となってしまいました。

陶片は歴代の城主のご意向で今でも大切にされ、お城の美術館にて戦争遺産として一般公開されています。歴史の証人、平和のメッセンジャーとして強烈な存在感のあるコレクションですが、今のところ日本人も含め、その存在はほとんど知られていません。




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この夏、私は、数奇な運命を辿ったこれらの古陶磁コレクションを訪ねにオーストリアへ旅立ちました。




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私とこの古陶磁コレクションとのそもそものご縁は、2015年秋、在京オーストリア大使公邸にて当時の駐日大使のお姉様にあたる城主ピアッティご夫妻をウィーンからお迎えし、還暦の茶会をさせて頂いたことに遡ります。




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初来日のピアッティご夫妻
前オーストリア大使ご夫妻と
公邸のお庭で野点
この時初めてコレクションについてお話をうかがいました






陶片コレクションの物語


東京のオーストリア大使公邸にて私が亭主をさせていただいたお茶会の席にて、ピアッティ氏はこんなことをお話し下さいました。



ピアッティ家は、熱狂的な磁器蒐集で有名なドレスデンのアウグスト強王の臣下にゆかりのある貴族の家系で、


近代以降はウィーン北部の古城に移り住み、そこに日本の古伊万里をはじめ、東洋や西洋の貴重な陶磁器を蒐集し、城内を美しく飾る調度品として大切にしてきたこと、


それらが第二次大戦時の旧ソビエト軍による城の接収の折に破壊の限りを尽くされ、大きなダメージを受けてしまったこと、


壊されてもなお、今日まで大切に守り伝えてきたこと、


戦争遺産として城の美術館にて展示されているが、訪れる人は少なく、学術的な裏付けもないまま今日に至っていること。。。




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城主夫人と美しい古城の間にて




後日写真も送って頂き、その無残な姿に私は言葉にならない哀しみを覚えました。同時に、長く大切に保管されてこられた先代や当代のご城主に敬意を表し、日本人である私に何かできることがあるのではないかという強い衝動に駆られたのです。




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壊された陶片の筋状の展示が
美と破壊、戦争と平和のメッセージを放つ






ロースドルフ城を訪ねて

古城はウィーンの北60キロに位置し、車で一時間程度で到着しました。
道すがら目に飛び込む田園風景は本当に美しくのどかで、とても楽しいドライブでした。



城主のピアッティ様は、ハプスブルク家に血縁を持つ中世以来の領主です。現在はその広大な敷地でオーガニックBIO栽培の農作物を生産され、お城とそこに伝わる宝物の数々を大切に管理されていらっしゃいます。




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古くは11世紀に建造の古城

最近の大改修は1800年代




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エメラルドブルーを基調とした美しい寝室



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広間の眼下には広大なお庭 その先には穏やかな田園風景






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お城の中の教会は今も地域の中心的存在



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泊まらせて頂いたお部屋
天井が高くピアノの音色が響きます



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中庭の噴水は なんとプールに!



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伯爵はオーストリアのオーガニック農園の先駆者

一面のフェンネル畑!いい香り!




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たわわに実ったオーガニックの洋梨



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隣りのビレッジはBIOワインが有名
三角屋根のワインセラーは千年の歴史







陶片の間



今でこそ、のどかな田園風景ですが、中欧一帯は度重なる侵略の歴史でもありました。

そして、ヨーロッパの王侯貴族にとても人気のあった伊万里焼のコレクションでしたが、ロースドルフ城では第二次大戦末期に旧ソビエト軍の侵攻にあい、壊滅的に破壊されるという悲劇に見舞われました。




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戦後70年以上にわたり、その無残な姿にも関わらず、

城主一家はそれらを戦争遺産として大切に継承し、美術館として一般にも公開しています(夏季限定。要予約)

それらは床にストライプ状のユニークなインスタレーションで展示されています。






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展示室の壁はあえて侵攻の傷跡を残す
壁にはロシア語の看板



戦争と平和、美の創造と破壊。
すべてを超越し融和へ向かう決意。
ウィーン北部の要塞を兼ねる小さな古城にて、数奇な運命を辿った日本の磁器たちは、私を惹きつけて止みません。



このままにしておいていいのかしら...。

静かな古城の人知れぬ展示には、私を突き動かす強い何かを感じずにはいられませんでした。




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お礼の茶会


滞在の御礼にいっぷく点てさせて頂きました。



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今回の旅に同行してくれたのは、学生時代からの旧友で書家の皆川彩雨さん。
ベルリン芸術大学で教鞭をとる彼女が、古城でのお茶会のために和敬清寂を認めてくれました。


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古伊万里再生プロジェクトの設立


陶片の存在を知って以来、遠くヨーロッパの王侯貴族に愛された日本のやきもののロマンと、戦争のもたらす悲惨さを、平和な日本に暮らす、戦争を知らない私のような世代と共有したいと強く思うようになりました。

そして、可能な限りアクションを取り、自分に何かできることはないかと模索し続けました。



これまで日本文化とはさほど馴染みのなかった城主夫妻には、やきものの完璧な姿をよしとする西洋文化に対して、日本には「わび(=不完全の美)」という感性があることをお伝えしました。



破片のように壊れてしまったものに対して慈しみと物語を紡ぐ感性であり、また、継ぐことは新たな感動を生む。多くの方の共感を得る可能性が高いこともお伝えし、ご賛同を頂くことができ、両国にて展覧会を目指すプロジェクトを発足させました。




そして、大変嬉しいことに、私と同じ熱量で感じ入って下さる専門家の方々と繋がり、2018年春には日本から初めての学術的な調査のため研究者チームの派遣が決まり、東京での展覧会も決定いたしました。


詳しくは、日墺共同の古伊万里再生プロジェクト公式ホームページをぜひご覧下さい。



世界は再び混沌としてきました。

歴史が語る戦争の悲惨さを、陶片の間にて示し続けてきた城主夫妻の素晴らしい感性と先見の明に敬意と感謝すると共に、

このプロジェクトを通して、文化・芸術の素晴らしいさ、過去の歴史と平和について、戦争を知らない若い世代とともに国境を超えて考えるきっかけにしたいと考えています。


ご支援のほど何卒よろしくお願い致します。



お問合せ、詳細はこちらまで!

日本オーストリア友好150周年記念事業

古伊万里再生プロジェクト



公式ホームページ



公式ふ



公式ツイッター






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ロースドルフ城のHPはこちら



The antique Imari collection from the medieval, treasured at the Loosdorf Castle, Austria. What makes it remarkable is the immense amount of shards. The beautiful antique porcelains were badly destroyed during the WW2 when the Russians invaded the castle. The broken porcelain collection is a message of peace. We are the international volunteer project team sharing the story of Loosdorf’s broken porcelains world-wide by academic researches, cultural events and exhibitions at Tokyo (Oct. 2020 to Jan 2021 at the Okura Museum) .

http://www.roip.jp



by hoshinamachiko | 2017-08-13 15:45 | 茶の湯つれづれ