茶葉が畑でどのように育てられ
どんな知恵と工夫があり
同じ緑茶でも、煎茶や玉露とどこが違うのか。
茶道を嗜む人でも
実際に碾茶(てんちゃ。抹茶のための茶葉)の畑を訪ねたり、手摘みを体験することは
残念ながらほとんどないのが実状です。
抹茶の生産者さんとの接点は持てないものかと
素朴な疑問を抱きつつ
なかなか機会に恵まれずにおりました。
海外の方に、
英語で日本の茶道をお伝えする活動をしておりますと、
世界中でその人気を高めているmatchaについて
必然的に、製法やこうのうを質問されることが度々あります。
そんな時は、本などから得た知識をお伝えするに留まり、
実感がこもらず、正直なところ、もどかしさを感じておりました。
そして!
ついに!!
抹茶の生産者さんを訪ねる機会に恵まれたのです✨✨
行き先は、京都茶舗『孫右エ門』さん。
昨秋、東京・青山DORMEUILサロンでの茶会や
今年二月の大徳寺瑞峯院様での濃茶席など、
本物志向の方々、若い世代に向けた、
茶の湯のご提案をコラボするなど、
志同じくさせて頂き、大変お世話になっております。
「今年のお抹茶の出来栄えを、ぜひ見に来てください!」
と、嬉しいお声をかけて頂き、
思い切って新幹線に飛び乗り、京都へ。
宇治茶の畑を訪ねに行って参りました。
江戸時代より続く茶園のオーナー太田さんご夫妻
とっても仲良しで素敵なカップルです✨
◯覆いをかけた茶畑
抹茶は、緑茶の茶葉を石臼で挽いたもの…とだけでは表しきれないほど
手塩にかけられた工程で成育されます。
抹茶にするために育てられる茶葉は、
碾茶(てん茶)と呼ばれ、
春に覆いをかけて
日光を極端に遮ることで
新芽は柔らかくなり、味と香りが凝縮した
最高級の茶葉となります。
ペットボトル詰めの緑茶をはじめ、
ちゃばの多くは年に二度、三度と収穫されるところ、
てん茶は、茶の木の樹齢と品質を守るため
その収穫を年に一度だけに留められています。
ここで、まず、抹茶の希少さが理解できます。
昔ながらの製法にこだわる抹茶を生産しておられます。
覆いをかけることで、
根で生成されたうま味成分のテアニンが、
そのまま葉のすみずみまで行き届きます。
日光をさんさんと浴びせる煎茶の場合、
テアニンは渋み成分のカテキンに化学変化をしますので、
この点で、お味に大きな違いが生まれます。
日光を遮断された碾茶は生育もゆっくり。
そのため生産量が非常に限られるので
ここでもまた、抹茶は希少な食品と言えます。
茶葉は、まるで赤ちゃんの肌のように柔らかくてツヤツヤ✨
同じく茶葉に覆いをかける玉露も
覆う期間が短く、また、手もみの工程の有無といった
生産工程に、碾茶との違いがあります。
ただし「緑茶」というくくりでは、
煎茶も抹茶のための碾茶も同じ品種の木であり、
もっと言えば、紅茶やウーロン茶とも同種です。
紅茶は発酵茶、ウーロン茶は半発酵茶ですが、
緑茶は発酵をさせないように、収穫後ただちに茶葉を蒸すところに違いがあります。
茶の木は樹齢数十年、
なかには数百年というものもあるそうで、
お茶農家さんでは古くから
「植えた当初50年は煎茶で、
次の50年で碾茶(抹茶にする)で採りなさい」
と言われているそうです。
抹茶に使う茶葉は樹齢の高い木が適するということですね。
益々ありがたみが増してきます。
覆いの下はひんやり涼しくて、マイナスイオンたっぷり。高濃度酸素と葉緑素のヒーリング効果で心身が癒されます✨
お茶の木に覆いをかけて
茶葉にうま味成分を残すという工程は、
400年前には実用されていたそうです、
より美味しく、より色鮮やかな抹茶を求めた
こだわりの強い当時の茶人たちと、
彼らの高い注文に応える形で
生産者が試行錯誤した様子が蘇ります。
こちらの農園では、
今では珍しくなってしまった昔ながらの手摘みで、
一枚ずつ、丁寧に茶葉を収穫します。
効率化と人手不足で機械化が進んでいるそうですが、
やはり一枚ずつ手積みする方が、茶葉が傷つかず、味も損なわれないそうです。
ベテランの手仕事!
瞬時に新芽を見分けてテキパキ手早い!!
お茶の葉にはアクがなく、天然の油分で摘む手もしっとり潤います✨
◯茶葉の加工
収穫された茶の葉(てん茶)は、
その日のうちに蒸しと乾燥の工程を経て
水分を5%にまでカットさせた
パリパリ状態の(あら茶)にします。
煎茶や玉露のような手もみ乾燥はしません。
工場内は蒸らしと乾燥の工程で室温が50度にも上がります。
お茶の香りが充満していて幸せ♪
出来上がったパリパリ状態の茶葉は
驚いたことに、このままでも美味しくいただけちゃう!
旨みたっぷり!!
かつお節みたい!!
このパリパリ状の茶葉(あら碾)に、
お茶選りという、更に気の遠くなるような作業が施されます。
軸や茎を選り分けて、
実際に抹茶として頂く葉の中心部のみにします。
茶葉は湿気を嫌うため、
部屋は除湿機がフル稼働。
お子さんが幼稚園や学校にいる間の時間で
主婦の皆さんが作業をなさっていらっしゃいました。
こうして仕立てられた茶葉は、
夏の間、じっくりと寝かせて熟成させます。
茶道では11月に入ると、茶壺の封を切り、石臼で挽き、
その年の新しい抹茶として頂く儀式をいたします。
これが、茶人のお正月と言われる「口切りの茶事(ちゃじ)」です。
抹茶は、茶道において、
自然の恵みと関わる方々への感謝のシンボルなのです。
◯農園さんならではのご馳走
今回の訪問では、
農家さんだからこそ味わえる
ご馳走もいただきました。
収穫直後の茶葉を蒸らして乾燥させた(あらテン)。
このままパリパリと頂いちゃいます。
うま味たっぷりで後引きの美味しさ✨
旨みたっぷり!お酒のあてにもオススメ。
てん茶をそのまま煎じると、まるでお出汁のようなうま味!
ご飯にかけて…これぞ本物のお茶漬け。
ほかには何もいりません!
本当に美味しいお抹茶は、石臼で一時間じっくり挽いて、たった20g...。
気が遠くなる作業ですが、急いで挽くと苦い抹茶になってしまいます。
余談ですが、売れない芸者さんのことを
裏で抹茶を挽く時間があることから
昔は「お茶ひき」さん、なんて呼んだりしたそうですね😆
◯将軍献上品クオリティ
このようにして大切に大切に育てる秘伝の抹茶は、ほんず製法といい、
金粉1グラムと抹茶1グラムが同じ価値で取引される程、高価なものでした。
「金粉=抹茶」
えっ?とお思いになるかもしれませんが、
将軍に献上されたほんず抹茶は、
それ程の高い価値あるものでした。
蛍光黄緑色こそ、ほんず抹茶の証
そして…
そのお味を現代にも受け継ぐ茶園さんが
あるのですから感激なのです。
全国でも数件のみにまで減少したそうですが、
利休の時代からの、本物の抹茶のお味を再現するため
製法を伝承し、日々がんばっておられます。
「これが江戸時代のお味…‼︎」と大変に感動しました。
最近では、市販の抹茶は全般的に甘みを好む傾向にありますが、
まったりとしたうま味、喉越し、鼻に抜ける芳醇な香りは
これまでに体験したことのない素晴らしいお味です。
なによりも、
味覚でタイムスリップできる訳ですから、
いまでも鮮明に思い出せるほどのインパクトでした。
将軍献上品と同じ製法で、当時のクオリティを再現。
現代にあって、このお味を体感できるって、
本当にありがたいことです。
◯『本物』ってなんだろう
時代を超越する五感体験こそ『本物』であり、
茶道の醍醐味だと私は考えます。
その体験が心を潤し、人を幸せにする。
時を経ても、鮮明に思い出せる一期一会。
人を感動させるものが、本物だと思います。
お茶会で、目の前にする古いお道具と昔ながらのお点前で
いっぷくの献上品のお抹茶を頂いたなら...。
人、自然、宇宙、すべてとの繋がり、
「いま」「ここ」に至っていることへの感謝、
言葉や国境を越える普遍的な価値を味わって頂けるでしょう。
今でも思い出しては感動新たになさるのも、
『本物』を五感で体験されたからに他なりません。
本物は裏切らない。
どこかで聞いたことのあるフレーズですが、
正にその通りだと思うのです。
五感体験を、今どきの用語で表現すると
「マインドフルネス」になります。
私は、最高にクオリティの高いマインドフルネスを
茶道を通して味わって頂きたいと考えています。
濃茶をほんず抹茶で練りました。
◯茶道と抹茶のこれから
抹茶はお点前にはなくてはならないもの。
茶室にあって、お客様とのコミュニケーションを円滑にする要であり、
茶碗の中のお茶には、自然の恵みと生産に関わる方々の思いが詰まっています。
茶会の中心にある『お茶』。
茶道が伝統文化として継承され続ける中で、
抹茶そのものについても
もっと光を当てていくことで、
更にその魅力が広がるのではないかと思います。
◯残したい本物の「抹茶」
本物は美味しい。
本物はカラダに優しい。
抹茶は、茶葉そのものを摂取する食品です。
抗がん作用、抗酸化作用、血圧コントロール、美容や免疫力アップなど
様々な効能がある栄養価に富んだスーパーフード。
カフェインが穏やかに作用するため
リラックス効果や仕事の能率もあげてくれるでしょう。
お点前にこだわらず、
日頃から茶筅を振って抹茶をいただく習慣が
もっと広がればいいのにな、と思っています。
もちろん、お茶碗を手にする時間は、ひとときのマインドフルネスを意識して。
自然の恵み、関わる方々すべてへの感謝の気持ちと共に味わいます。
また、今回の茶園訪問で、とても印象的だったのは、
地域の皆さんが総出で、作業をされている様子です。
覆いの下のあちらこちらから
楽しそうなお喋りや笑い声が聞こえてきました。
年に一度の収穫期。
数百年間、変わらない初夏の風物詩なのでしょう。
残したい原風景だと思いました。
お茶摘みを楽しみにされている地域の皆さん楽しそうなお喋りと笑い声が絶えません。
この道ひとすじ
太田さんのお母さまと。
茶畑でも機械化と効率化が進み、
いつか手積みがなくなってしまうのでは...と、
オーナーの太田さんは危機感を抱いておられました。
手積みは、やっぱりお味が違う。
残念ながら、このような伝統的な製法を守っている生産者さんは
全国でも(世界中で)ごくわずかだそうです。
◯抹茶のロマネ・コンティ『しろたえ』
品質と樹齢を守るため、収穫を年に一度にとどめ、
地域の方々も総出で一枚ずつ手摘みにこだわる。
熟練の生産工程、その成果物としての最高品質。
妥協せず、究極までこだわった抹茶は、
まさに【抹茶のロマネ・コンティ】と言えましょう。
同行した私の母は、太田さんのお話を聞きながら、
ありがたい、ありがたいと
何度となく涙ぐんでいました。
本物は、人を感動させるのです。
手塩にかけて育てられた茶葉は、
自然の恵みと、関わる方々の情熱と愛情の賜物だということが
私もよくよく分かりました。
本物とは何か。その答えを見せて頂いたように思います。
この度、京都茶舗孫右エ門製ほんず抹茶のお茶銘を
当家の家紋にゆかりある『白栲(しろたえ)』と命名させて頂きました。
ほんず抹茶『しろたえ』が
これからの時代、本物にこだわる人たちによってますます注目され、
愛飲されるように、私も微力ながら応援し続けたいと思います。
また来年の収穫が楽しみでなりません。
太田さん、茶園の皆様、ありがとうございました!!